投資をしているとニュースや投資レポートなどで「リスクオン(リスクオンムード)」や「リスクオフ(リスクオフムード)」という言葉を目にすることがあるのではないでしょうか。
リスクオン、リスクオフとは市場の心理状況を表した言葉で
- リスクオンとは、市場参加者がリスクを好んで取っている状態
- リスクオフとは、市場参加者がリスクを好まず回避している状態
のことを言います。
市場に対して下がる気配を感じずに楽観的な見方をしているときは「多少リスクがあっても大きく儲けたい」と思いますよね。
このようなときは多少リスクがあっても大きなリターンを狙えるものが投資家に買われる傾向があります。
逆に、市場に対して悲観的な見方をしているときは「なるべく資産を安全なところに移して損失が出ないようにしよう」と考えると思います。
このように、市場に対して楽観的で積極的にハイリスクハイリターンを狙っていこうとする状態を「リスクオン」、市場でのリスクを警戒してローリターンでも安全な資産を買っていく状態を「リスクオフ」といいます。
リスクオン・リスクオフで買われる通貨・売られる通貨
買われる通貨、金融商品 | 売られる通貨、金融商品 | |
---|---|---|
リスクオン | トルコリラ 南アフリカランド 豪ドル NZドル ポンド 加ドル ユーロ 株 原油 | 米ドル 日本円 スイスフラン 金 日本国債 |
リスクオフ | 米ドル 日本円 スイスフラン 金 日本国債 | トルコリラ 南アフリカランド 豪ドル NZドル ポンド 加ドル ユーロ 株 原油 |
表を見ると分かる通り、
リスクオンでは商品、株式、新興国通貨にお金が集まる相場ムード
リスクオフでは債券、安全通貨、現金などにお金が集まる相場ムード
です。
リスクオン相場では新興国通貨などのいわゆる高金利通貨が買われます。
新興国は経済状況が安定していないため、通貨の為替も安定しにくくリスクがあります。
具体的にはトルコリラ、南アランド、豪ドル、NZドルなどです。
その他、株や原油などの商品も買われていきます。
リスクオフ時に買われやすいのが米ドルや日本円、スイスフランです。
新興国に投資されていたお金が米ドルや日本円などの安全な資産に集まってきますので、為替は円高やドル高傾向になっていきます。
商品では安全資産である金やプラチナがリスクオフに買われやすくなります。
リスクオン相場の事例とトレード戦略
トランプ相場(2016年11月~)
2016年、アメリカの大統領選挙でトランプ氏が選ばれたことで米国の景気改善が期待され、米国の株式はもちろん、為替も上昇しました。
このチャートを見てみると、大統領選にトランプ氏が勝利した日に勢いよく上昇しています。
その後、株価はじっくりと上昇をし続けています。実際、上昇はこの調子のまま2018年の1月まで続いています。
為替も同様にドル円が選挙を皮切りに上昇していますね。
なぜトランプ氏の当選で景況が上がったかと言いますと、トランプ氏は選挙中に減税、規制緩和、公共事業拡大を掲げていました。
そのトランプ氏の大統領選勝利で米国の景気が拡大するとの期待から米国の株価が上がり、金利も上昇しました。
一方、日本では日銀が長期金利を低く抑えていますので金利が上昇したドルが買われて低金利の円が売られました。
リスクオンムードの時のチャートの特徴としては、急上昇というよりも、じわじわと上昇をし、その状態が長く続くということが挙げられます。
このようなときに「そろそろ天井だろう」などと逆張りをするとじわじわと痛い目を見ることになります。
リスクオンムードの時のトレード戦略は、クロス円ではシンプルにロングでトレンドフォロー型投資をしていきます。
新興国通貨も堅調に上がっていきますので、中長期のロング戦略である程度長期間利益を得ることができます。
反対に逆張りは危険。一時的な戻りはあるものの再び価格は上昇していきますので損を重ねていくことになります。
リスクオフ相場の事例とトレード戦略
欧州通貨危機(2010年)
2009年10月に政権交代したギリシャで、これまで国家財政の粉飾決済をしていたことを新首相のパパンドレウさんが暴露したことを発端として、欧州で経済危機の連鎖が起こりました。
「それまで対GDB比3.7%の赤字と発表していたんですけど~…、実は赤字は12.5%でした!」
なんて発表されたものですから、ヨーロッパは騒然とします。しかも、ギリシャは小さな国。自力で解決することは不可能なのではないかという懸念から破綻リスクが意識され、一気に危機ムードが到来します。
年末の12月16日にスタンダード&プアーズがギリシャの格付けを「A-」から「BBB+」に引き下げたことをきっかけにユーロ売りが始まります。
ユーロ危機ではギリシャだけでなく、スペイン危機など欧州に悪いニュースが相次いで起こりましたので、下落懸念が一気に拡大して急落しました。
さて、リスクオフ相場のチャートの特徴は、「一気に落ちる」です。
このような経済危機が起こったり、事件や自然災害が起こった時は投資家たちは一斉にリスクを回避しようとします。
一斉に売りがかかるので大きく下げ、最後はセリングクライマックスのような状態がリスクオフでよく見られる形です。勢いをつけて下落しますが、売り切ったところで長いヒゲをつけて上昇してきます。
セリングクライマックス(セリクラ)とは?FX・仮想通貨・日経平均株価でのチャート例
リスクオフでのクロス円のトレードでは、短期のショートポジションで早い回転でトレードをすることができますが、セリングクライマックスの急落後の急上昇や乱高下を意識して損切り設定をしておくこと、そして無理なトレードはしないことがポイントです。
リスクオフが起こるとあっという間に大幅下落しますので、トレードの際は損切り設定はしておくようにしましょう。
リスクオフ相場ではなぜ円高になるのか
リスクオフの時になぜ日本円やドルが買われるのかといいますと、日本円やドル円は「安全通貨」として投資家にみなされているからなんです。
安全通貨は日本のように地政学リスクがなく経済的に安定した国だったり、米ドルのように世界の基軸通貨であったり、スイスフランのように中立国であったりする通貨が選ばれます。
特に日本円の場合は低金利であることからも世界のトレーダーに安全通貨という認識を持たれています。
例えば、2018年はトランプさんが色々な国に対して喧嘩を売る様なことが起こっていますね。
If the U.S. sells a car into China, there is a tax of 25%. If China sells a car into the U.S., there is a tax of 2%. Does anybody think that is FAIR? The days of the U.S. being ripped-off by other nations is OVER!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年9月9日
トランプさんが北朝鮮に対して挑発のような発言をしてアメリカと北朝鮮の間に緊張が走ったり、トルコ政府に対しても強気な発言をしたり、中国に大きな関税をかけると言ったり。
アメリカは世界の基軸通貨ですから安全な通貨ではあるのですが、
と世界中の投資家が心配になってしまうと、ドルを持っていることにリスクを感じます。
アメリカやドルが無くなってしまうようなことはないでしょうが、
と思うわけです。
そこで、
などと考えて、円買いへと向かいます。
そのようなことがあり、アメリカが関わっている危機や危機になりそうなことが起こると、リスクオフで日本円が買われる傾向にあります。
ただし、ドル円に関しては注意点があります。リスクオフムードになった時に必ずしもドル円が下降して円高傾向になるわけではないということです。
世界中の投資家がドルを使ってさまざまな投資先に買いを入れているので、ポジションを解消したときは当然ドルが買われますし、取引量が多いためにさまざまな思惑が絡んで複雑な動きをしますので、必ずしもセオリー通りにいかないのがこのドル円なんです。
ドル円は新興国通貨のようにシンプルにテクニカル分析にはまってくれないので、「リスクオフムードだからドル円は下がる」などと安易に判断しないようにしましょう。
リスクオンとリスクオフの判断方法
通貨ペアの相関関係をチェックする
リスクオン相場の判断方法は、相関関係にある2つの通貨ペアの動きをチェックします。
為替の中で相関関係にある通貨ペアといえばユーロ/ドルとドル/円です。
為替ではドル円が上がるとユーロドルが下がる傾向にあります。
上のチャートがドル円の週足、下のチャートが同じ時期のユーロドルの週足です。
ユーロドルが下がっているときにドル円が堅調に上昇していることが分かります。そしてドル円の上昇が落ち着いたころにユーロドルが上がり始めていますね。
2つのチャートは同じ時期なのに逆向きの動きをしていいることから、ドル円とユーロドルは相関関係にあることが分かります。
為替の通貨ペア同士以外では、NYダウとNY金、ドル円とNY金などが相関関係にありますのでリスクオンを疑ったときはチェックしてみると良いでしょう。
リスクオン、リスクオフ相場になるときはこのユーロドル、ドル円の相関関係が崩れたときとなります。
具体的にはこれまで反対に動いていたドル円とユーロドルが同じ方向に動くときがリスクオン、リスクオフ相場に入ったと言えます。
通貨ペアの相関関係が崩れた時
次の2つのチャートは2008年~2009年のユーロドルとドル円の日足チャートです。
チャートの真ん中あたりがリーマンショックが起こった2008年9月でこの9月を頂点として下降していますが、注目すべきは相関関係にあるはずのユーロドルとドル円が同じように下降していっているということです。
相関関係にある2つの通貨ペアが同じ動きをし始めたらリスクオン、リスクオフ相場が始まった一つのシグナルとしてとらえると良いでしょう。
ただし、ドルは基軸通貨で取引量が多く、他の通貨ペアのようにシンプルな動きはしませんので、リスクオン相場、リスクオフ相場できれいにユーロドルとドル円がシンクロするとは限りません。
逆も同じで、通常時でも一時的にユーロドルとドル円が同じ動きをすることもありますので、相関関係は一つの参考資料として見るようにしましょう。