エンベロープとは、日本語で「移動平均線乖離率バンド」と呼ばれ、移動平均線に対して上下に一定の乖離をもった線を描いたバンド状の帯域のことです。
価格は移動平均線に収束されやすいという性質から、価格が移動平均線からどれだけ乖離しているのかを基準として売買の判断をします。
- ローソク足が、バンドの両ラインにタッチまたは超えた時点をポイントとして逆張りする手法が主である。
- 保有しているポジションを手仕舞うタイミングに使うこともある。
使い方は、FXでも株でも仮想通貨でも基本的に同じなため、一度覚えてしまえば他の投資対象でも利用することが可能です。
この記事では、エンベロープの使い方や手法を解説します。
その他のテクニカル指標については次の記事で解説しています。
テクニカル分析の種類・基本編|FXチャート・為替レートの見方まとめ
エンベロープとは
真ん中の赤いラインが移動平均線です。上下に表示されているラインがエンベロープです。
上の線をUPバンド、下の線をLOWバンドと呼びます。
実戦では複数の乖離幅のエンベロープを何本か引いた状態でトレードすることが多く、上下に3~4本ずつエンベロープが引かれることも少なくありません。
エンベロープの乖離率は25日移動平均線に対し、株価では±5%、±10%乖離が用いられる事が一般的ですが、為替の場合は25日移動平均線に対し、±1%~3%の乖離率が多く用いられます。
エンベロープとボリンジャーバンドの違い
エンベロープと描かれる形が似ているのがボリンジャーバンドです。
上記の2つのチャートは同じ条件のローソク足チャートですが、上のチャートにはエンベロープ、下のチャートにはボリンジャーバンドを描画させています。
エンベロープは、ある期間の移動平均値から任意の幅をその上下に帯域として描きますが、ボリンジャーバンドはこのエンベロープに標準偏差などの統計的な要素を盛り込んだ応用型の指標です。
エンベロープはある程度同じ幅のバンドを描き続けているのに対し、ボリンジャーバンドは値動きの勢いによって指標の帯域であるバンドが広がったり縮んだりしています。
ボリンジャーバンドでは価格の値動きが激しくなり、ボラティリティが大きくなるとバンドの幅が広がり、逆に値動きが緩やかな時期ではバンドの幅が狭くなります。
エンベロープやボリンジャーバンドはスキャルピングの逆張りエントリーによく利用されます。
これらを利用した具体的な手法は「FXスキャルピング手法!1分足、5分足で月100万円稼いでいるコツと勝ち方」で解説しています。
-
FXスキャルピング手法!1分足、5分足で月100万円稼いでいるコツと勝ち方
FXの手法の中でも、短時間で利益を上げられて損失も少ない手法「スキャルピング」。 年収で1000万以上稼いでいるFXトレーダーの数だけ、それぞれ独自の投資手法とノウハウがある…
続きを見る
エンベロープの計算式
エンベロープの描き方は、移動平均線を任意の割合でプラスとマイナス方向にずらすだけのシンプルなものです。
UPバンド = 移動平均線 + 移動平均線 × N%
LOWバンド = 移動平均線 - 移動平均線 × N%
※Nには移動平均線から乖離させたい任意の数値を入れます。
エンベロープの使い方
使用する時間足に合わせて乖離率を調節する
エンベロープでは、分析に使用する時間足に合わせて、自分に使いやすい乖離率にパラメーターを調節して使用します。
FXではだいたい±1~±3パーセントの乖離幅で設定するのが一般的ですが、乖離率の設定は順張りの場合は小さめに、逆張りの場合は大きめに設定するのが有効とされています。
相場の状況によって順張り、逆張りと戦略も変わってきますのでエンベロープを±1%、±2%、±3%...と複数表示させて値動きを観察します。
基本の逆張りシグナルとして使う方法
エンベロープでは両バンドを反転ポイントとします。
UPバンドにタッチした時は売りのシグナルが点灯、逆にLOWバンドにタッチした時は買いのシグナルが点灯ということになります。
逆張りをする際に直近のチャートを見ながらエンベロープのどのパラメーターが反転ポイントとなっているのかを探しておきます。
移動平均線より下で、反転ポイントになっているエンベロープのバンドにタッチした時点で買い、または保有の売りポジションを決済。
上のバンドにタッチした時点で買いポジションを決済、または売りでエントリーします。
ボックス相場のような穏やかな展開の相場では、このような逆張り手法を繰り返すことで何回も利食いすることができます。
トレンド相場での押し目買い、戻り売り(順張り)
エンベロープでの順張りでは移動平均線に注目します。
上昇トレンド中では、移動平均線をローソク足が下回らなくなります。
逆に、下降トレンドでは、移動平均線を上抜けない状態が続きます。
大きなトレンドが発生したと判断したら、ローソク足が移動平均線にタッチし、反転が確認できた時点で押し目買いのシグナルとします。
この場面では、ローソク足がエンベロープのLOWバンドにタッチし、UPバンドにタッチした後は、一番下のLOWバンドまでは下がらない上昇トレンド相場になっています。
このような大きなトレンドでは順張り手法でエントリーします。
移動平均線がサポートになっていますので、ローソク足が移動平均線にタッチして反転したところで押し目買いをします。
下降トレンドも同様で、下降トレンドでは移動平均線が上値を押さえている状態になりますので、価格が移動平均線まで上昇したら戻り売りを仕掛けます。
エンベロープのパラメーター設定のコツとして、価格が急激に変動したときはエンベロープの乖離率を大きくします。
逆に、これまでの穏やかな相場でタッチしている乖離率のラインよりも高い乖離率にローソク足が到達した時には、相場に大きなエネルギーが働いていると考え、トレンド発生のサインとします。
ダイバージェンス(逆行現象)でサインを見つける
ダイバージェンスとはローソク足とオシレーター系指標の方向が上下逆を向いている逆行現象のことを言います。
ダイバージェンスとは|オシレーター系を使ったトレンド転換の見つけ方
例えば、ローソク足が上昇トレンドなのにオシレーターが下がっている状態のことを指し、トレンドの勢いが低下していることを教えてくれます。
ダイバージェンスは発生後すぐにトレンド転換するわけではなく、ダマシが多いという短所があります。
そこでトレンド系指標のエンベロープと組み合わせてダマシを回避します。
チャートではエンベロープとRSIを描画しています。
①の地点ではローソク足が下落トレンドを継続しているにも関わらず、RSIが上昇しています。その後、ローソク足がエンベロープのLOWバンドにタッチした後、上昇トレンドに転換しています。
②の地点ではローソク足は長い上昇トレンドを描いていますが、RSIの山の頂点が低くなっているダイバージェンスを形成しています。ダイバージェンスが起こる中でローソク足がエンベロープのUPバンドにタッチした後、トレンドが一旦終了しています。
エンベロープのメリット
エンベロープは穏やかな相場が得意
エンベロープではボックス相場のような穏やかな相場での逆張り手法でその力を発揮します。
上下のバンドがサポート、レジストとして機能するため、価格がLOWバンドを割った時に逆張りの買い、UPバンドをブレイクしたところで逆張りの売りをして活用することができます。
合う乖離率を見つけると信頼性が向上する
エンベロープでは通貨ペアや時間足によってマッチする乖離率が変わりますが、マッチする乖離率を見つけることでエンベロープの信頼性がかなりアップします。
時間足 | 設定値 |
---|---|
1分足~15分足 | 0.5%~1% |
30分足~1時間足 | 0.5%~2% |
1時間足~日足 | 1%~3% |
※重要指標の直後など為替が大きく動きやすい場面では乖離率が大きくなる傾向にあります。
※エンベロープは相場の状況によってローソク足の動きに合う乖離率が変わります。複数のエンベロープを同時に表示させてトレード前に直前にタッチしている乖離率を確認してから実際のトレードを行うようにしてください。
トレンドの発生を早期に見つけることができる
為替では、エンベロープは突き抜けにくいといわれています。
もし為替レートが大きくエンベロープを突き抜ける現象があった時は、大きなトレンドを早期にキャッチできる可能性が高くなります。
エンベロープのデメリット
エンベロープは強いトレンド相場に弱い
エンベロープは穏やかな相場が得意な指標です。
逆に穏やかな状況から一遍して強いトレンドが発生した時には、エンベロープの逆張りが危険になることがあります。
逆張りでエンベロープを使用していて、Aの地点で売りポジションをエントリーしていた場合、図のような相場局面に突入した場合に売りポジションを解消する余裕がないまま価格が急激に高騰してしまい、損失が大きくなってしまうリスクをはらんでいます。
急激な値動きの発生によるリスクを避けるためにオシレーター系などの他の指標を併用させてチェックすることをおすすめします。
上のチャートではオシレーターはストキャスティクスを使用しています。
①ボックス相場の中で、ストキャスティクスのサインに対し、ボックス相場開始当初ほどの値幅を取れなくなってきたら、相場のエネルギーが貯まってきていることになります。価格が上下どちらかに放出される時期が近いと見ます。
②ストキャスティクスのダイバージェンスが起きた直後に相場が大きく動いています。ただし、ダイバージェンスが起こらずに相場が動くこともあるのでボックス相場内のローソク足の動きと併せて観察する必要があります。
いつも同じ条件がはまるわけではない
エンベロープではいつも同じ条件がはまるわけではないのがデメリットです。
個々の通貨ペアではそれぞれ値動きが異なり、それぞれの出来高も異なることから、統一した経験則を決めてしまうのは難しくなります。
ボックス相場、トレンド相場、逆張り手法、順張り手法でも微妙にはまる乖離率のバンドが変わってきますので、直前の値動きを観察しながらぴったりとはまるラインを見つけます。
取引する通貨ペアや得意な相場はトレードを重ねているとパターン化してきますので、どんな通貨ペアでどんな相場の状況が自分にとって使いやすいのか知っておくと、エンベロープを活用するのに便利です。
エンベロープとRSIの組み合わせ
RSIは買われ過ぎ、売られ過ぎを示してくれるオシレーター系の指標です。
RSI単体ではダマシが多いため、エンベロープと併せて反発のタイミングを測ります。
RSIが70を超え、かつエンベロープのバンドにタッチしていたら売り、RSIが30を下回り、かつエンベロープにタッチしていたら買い注文をします。
①ではRSIのラインが70を超えています。そこでエンベロープを確認すると、ローソク足がエンベロープのUPバンドを上抜けていますので売りでエントリーするか、または買いポジションを決済します。
②でRSIが30%を下回りました。エンベロープではローソク足がエンベロープのLOWバンドを下抜けていますので①の売りポジションを決済、または新たに買いポジションをエントリーします。
この手法はRSI、エンベロープともに得意な穏やかな相場で有効な手法です。強いトレンド相場には向かないので注意が必要です。
エンベロープはバリュー分析にピッタリのテクニカル手法
テクニカル分析には、次の4つの視点があります。
- トレンド分析
- バリュー分析
- パターン分析
- サイクル分析
エンベロープはこのバリュー分析の代表格であり、エンベロープと並んで人気のテクニカル指標がボリンジャーバンドです。
市場の価格は時折適正な水準から大きく乖離した状態になります。これの最たるものが「バブル」と呼ばれるものですが、バブルまでに至らなくとも適正な水準からの乖離という現象は日々頻繁に発生しています。
その中で価格は適正水準からの乖離に向かうエネルギーを発散すると、その後適正な水準へと戻っていく「自己修正」の動きをします。
この「乖離から修正」の動きの中で収益を狙うために利用するのがバリュー分析です。
エンベロープ、ボリンジャーバンドともに価格の割高、割安を判断できる指標です。
エンベロープでの逆張り手法は為替や株価が割高、割安に行き過ぎればやがて解消され、適正価格に向かうと考えて行われる手法になります。
逆張りを行う際に「価格が移動平均線から乖離しているのでいずれ修正される」というバリュー分析の基本的な考え方を知っておくだけで、トレードテクニックがより具体的で実戦的になります。