アービトラージ(arbitrage)とは、2つのFX会社の口座を利用した「サヤどり」のことです。
同一通貨ペア・同一価格・同一数量を、A社では買い注文、B社では売り注文をして、「レートの価格差」または「スワップの価格差」を利益にします。
ただし「レートの価格差」を利用したアービトラージというのは、FX会社間の現在レートに大きな開きが発生したときに注文を入れる必要があるので、突発的でタイミングが難しくリスクも高いため現実的ではありません。
反対に「スワップの価格差」を利用したアービトラージのほうは、「レートの価格差」のように突発的に発生するものではなく、日毎または一定期間毎に更新されるものなので、予想がしやすく戦略性・計画性の高い取引が可能です。
スワップの価格はFX会社が自由に決めることができるため、価格差が大きく利益を狙いやすいという特徴があります。
そのため今回は、低リスクで確実性の高い「スワップの価格差」を利用したアービトラージについて、初心者の人にも分かりやすく解説していきたいと思います。
すぐにアービトラージの利回りを知りたい人はこちらをご覧ください。
この記事では便宜上、スワップを最も多く受取れるFX会社の口座を「勝ち口座」、最も少なく支払うFX会社の口座を「負け口座」と呼びます。
目次
アービトラージのメリット・デメリット
スワップの価格差を利用したアービトラージのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
- 為替変動リスクがほぼゼロ
- 塩漬けポジションを保有しない
- 安定して長期間スワップだけを受取り続けることが可能
- 外貨預金よりも手数料が格安で満期もなく、為替変動で利回りも変わらない
デメリット
- 利益はそれほど多くはない
- リスクを抑えるほど資金が必要となり利回りも悪くなる
- ロスカットによる強制決済を防ぐためには資金移動も必要
- FX会社2社でスワップ変動リスクがある
国内FX会社 8社のスワップ比較
まず、何よりも先に代表的なFX会社のスワップを比較したほうが、アービトラージの利益の出し方の理解が早まると思います。
ここでは国内FX会社8社で、米ドル/円、豪ドル/円、NZドル/円、トルコリラ/円の比較をしてみました。
プラス表示が受取スワップの金額、マイナス表示が支払スワップの金額です。
ちなみに、スワップというのはFX会社が自由に決めることができ、一定期間ごとに更新されるものです。
そのため、中長期トレードが前提のアービトラージの場合、ある1日のスワップだけを見てもあまり参考にならないので月間平均で比較をしています。
FX会社 | 買い | 売り |
---|---|---|
ヒロセ通商 | 8円 | -89円 |
GMOクリック証券 | 43円 | -46円 |
SBI FXトレード | 45円 | -46円 |
FXプライムbyGMO | 37円 | -48円 |
DMM FX | 35円 | -35円 |
ライブスター証券 | 47円 | -63円 |
外為どっとコム | 35円 | -35円 |
YJFX! | 46円 | -47円 |
※2018年3月の10,000通貨、1日あたりの月間平均
FX会社 | 買い | 売り |
---|---|---|
ヒロセ通商 | 50円 | -106円 |
GMOクリック証券 | 31円 | -32円 |
SBI FXトレード | 34円 | -36円 |
FXプライムbyGMO | 27円 | -37円 |
DMM FX | 35円 | -35円 |
ライブスター証券 | 37円 | -56円 |
外為どっとコム | 35円 | -35円 |
YJFX! | 34円 | -35円 |
※2018年3月の10,000通貨、1日あたりの月間平均
FX会社 | 買い | 売り |
---|---|---|
ヒロセ通商 | 60円 | -116円 |
GMOクリック証券 | 34円 | -37円 |
SBI FXトレード | 37円 | -39円 |
FXプライムbyGMO | 31円 | -41円 |
DMM FX | 42円 | -42円 |
ライブスター証券 | 41円 | -57円 |
外為どっとコム | 42円 | -42円 |
YJFX! | 37円 | -38円 |
※2018年3月の10,000通貨、1日あたりの月間平均
FX会社 | 買い | 売り |
---|---|---|
ヒロセ通商 | 82円 | -167円 |
GMOクリック証券 | 80円 | -90円 |
SBI FXトレード | 82円 | -88円 |
FXプライムbyGMO | 83円 | -94円 |
DMM FX | 取扱なし | |
ライブスター証券 | ||
外為どっとコム |
※2018年3月の10,000通貨、1日あたりの月間平均
豪ドル/円、NZドル/円は高金利通貨だけのことはあり、豪ドル/円18円、NZドル/円23円と価格差が大きいのでアービトラージの通貨ペアには最適です。
同じく高金利通貨のトルコリラ/円は、アービトラージは不可能でした。
また、ヒロセ通商の米ドル/円は、他社より受取スワップが最も安く支払スワップも最も高いためアービトラージには向いていません。
また、DMM FXと外為どっとコムは受取スワップと支払スワップが同額ということで有名です。
特に米ドル/円の支払いスワップの安さは他社を圧倒しているので、アービトラージにはもってこいのFX会社ですね。
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アービトラージの方法
アービトラージは名前は仰々しいのですが、手順は以下の通りとても簡単です。
- トレンドを見て口座資金の割合を決める
- 勝ち口座で注文
- 負け口座で反対注文
- スワップの価格差で稼ぐ
- 勝ち口座で決済
- 負け口座で決済
ただし、以下の点がアービトラージを上手く運用していく上での重要なポイントとなります。
- 勝ち口座は受取スワップが最も高いFX会社を選択
- 負け口座は支払スワップが最も安いFX会社を選択
- 注文内容は通貨ペア・同一価格・同一数量で指値・逆指値注文をする
- トレンドが反転し2つのポジションの損益が逆転しそうになったら口座資金を移動させる
- スワップ差額がプラスからマイナスになったらアービトラージを解消する
為替損益ゼロ、スワップ差額が利益
まず、上記の図を見てください。
同一通貨ペア・同一価格・同一数量で買い注文・売り注文をした場合というのは、理論上は為替損益は相殺されプラマイゼロとなります。
そこで、受取スワップの最も高いA社にポジションを一つ、支払スワップの最も安いB社に反対ポジションをもう一つ立てれば、為替変動リスクをほぼゼロにして長期間スワップの差額だけを受取り続けることが可能です。
A社はスワップを稼ぐ専用口座になるので「勝ち口座」、B社はスワップを支払う専用口座になるので「負け口座」と言うことができます。
選ぶ通貨ペアとトレンド方向によっては、勝ち口座(受取スワップのあるポジション)であっても為替差損(含み損を出すポジション)が発生することもありますし、その逆もあります。
ただしどのような状況でも、最終的な利益は変わりません。
注文方法は指値・逆指値注文
新規注文・決済注文をするときは、指値・逆指値注文をすれば原則スリッページは発生しないため、同一価格で約定ができます。
しかし、2社の「レートの価格差」と「スプレッドの幅」によって、片方だけ約定してもう片方を残したまま相場が反転してしまう恐れがあります。
これではアービトラージ失敗です。
新規注文・決済注文の時は、なるべく2社のレートの価格差が狭いFX会社を利用して現在レートに近い価格で指値・逆指値注文をした方が良いでしょう。
スワップポイントの変動には注意
スワップポイントは一定期間経つと更新されます。
更新間隔はFX会社によって異なり、1日毎または一定期間毎です。
そのため、場合によってはアービトラージをしている2つの口座のスワップ差額がプラスからマイナスに転じてしまうこともありえます。
こうなってしてしまうとアービトラージ失敗なので、ポジションを解消する必要がありますね。
つまり、アービトラージは「為替変動リスク」をほぼゼロにする反面、「2社間のスワップ変動リスク」が発生するということです。
ただし、為替変動リスクよりも確率は少ないとは思われますが、FX会社の意向次第なので注意しましょう。
そのため、まとめサイトなどのスワップランキングやFX会社の広告は、あまり鵜呑みにしてはいけません。
FX会社のスワップカレンダーをチェックして付与金額が長期間に渡って安定しているFX会社を選び、日々金額をチェックすることが大切です。
必要資金・ロスカット・利回りの関係
では、具体的にアービトラージに必要な「口座資金」「ロスカットまでの値幅」「利回り」の関係を見てみましょう。
以下の条件(豪ドル/円 10万通貨)であれば、年間のスワップ差額利益は65,700円です。
もっとも利益の出る通貨ペアとFX業者の組み合わせランキングはこちらをご覧ください。
口座資金 | ロスカットまでの値幅 | 利回り |
---|---|---|
8,000,000円 | 7680pips(76.8円) | 0.82% |
4,000,000円 | 3680pips(36.8円) | 1.64% |
2,820,000円 | 2500pips(25.0円) | 2.32% |
1,600,000円 | 1280pips(12.8円) | 4.10% |
800,000円 | 480pips(4.8円) | 8.21% |
320,000円 | 即ロスカット | 20.53% |
アービトラージを成功させるには、何が何でもスワップを受け取り続けることが必要なので、強制決済・ロスカットの確率をほぼゼロに維持しなければいけません。
表のロスカットまでの値幅の計算式は以下の通りです。
ロスカットまでの値幅
口座資金 ー(必要証拠金×ロスカット率)÷ 取引数量
つまり、アービトラージの必要資金・ロスカット・利回りの関係は以下のようになります。
- ロスカットまでの値幅が広いほど、資金が多く必要となり利回りが悪くなる
- ロスカットまでの値幅が狭くいほど、資金は少なく済むので利回りが良くなる
次に、過去10年の豪ドル/円の値動きを見てみましょう。
高値が2013年の105円、安値が2011年の72円でした。
エントリーを80円とすると、「上がっても25円、下がっても8円くらいまでかな?」と予想できます。
このうち大きい方の値幅をロスカットまでの値幅と考えれば、2つの口座どちらもカバーできる必要資金が分かります。
先ほどの表では、ロスカットまでの値幅25円の必要資金は2,820,000円、利回りは2.32%です。
ただ、その際は新規ポジション分のスプレッドは余計にかかることになります。
それくらいならありに思えるな〜。
トレンドが変わる場合は資金移動
アービトラージに使える資金は、2つのFX会社の口座に分割して入金します。
そして、開始時点で為替差益が続きそうなポジションの口座には少なめ、為替差損が続きそうなポジションの口座には多めの比率になるように入金することがポイントです。
なぜなら、為替差益が続きそうな口座はしばらくロスカットには程遠く安全ですが、為替差損が続きそうな口座は最初からロスカットが近いからです。(ロスカットは2社でそれぞれ判定されます)
そして、トレンドが変わり現在レートが最初の注文価格を超えると2つの口座で損益が逆転します。
つまり、現在レートが注文価格に近づくほど資金を移動させる必要性が高まるため、この時期は特にチャートに注目し資金移動の準備をしなければいけません。
極端な例ですが、イメージとしては以下の図のような感じです。
このように、2つの口座に分割した資金はトレンドの変化によってその比率を変える必要があります。
急遽、どこからか資金を工面して入金してもいいのですが、それではトータルの投資資金が増えて利回りが下がるばかりなので、あまり計画的な資産運用とは言えません。
入金には24時間・即時反映・手数料無料のクイック入金が便利です。
しかし、出金は口座反映までが最短でも翌営業日なので時間がかかります。
急激な相場変動に対応できるように、日頃から現在レートと2つの口座の残高に気を配って、ロスカットまでの安全圏を保つようにしておくことが大切です。
アービトラージの取引コスト
取引手数料
ほとんどの国内FX会社では、取引手数料は無料です。
アービトラージは最大でも4回(最初の新規注文時と最後の決済時の2回×2社)しか取引が発生しないので、もし取引手数料があったとしても取引コストは微々たるものです。
参考までに、FXプライムbyGMOでは1万通貨未満の取引数量の場合は、1通貨あたり3銭の手数料が徴収されます。
出典:FXプライムbyGMO
スプレッド
アービトラージはスキャルピングやデイトレードのように頻繁に売買をするわけではありません。
スプレッドはFXの代表的な取引コストですが、それほど大きな負担にはなりません。
強制決済・ロスカット手数料
ほとんどのFX会社は、強制決済・ロスカットは手数料無料です。
しかし、大手FX会社の中では、GMOクリック証券、FXプライムbyGMOの2社が強制決済・ロスカット手数料を徴収しているので気をつけましょう。
GMOクリック証券 | ZAR/JPY:50円/1万通貨あたり 上記以外:500円/1万通貨あたり |
---|---|
FXプライムbyGMO | ZAR/JPY:50円/1万通貨あたり MEX/JPY:50円/1万通貨あたり 上記以外:500円/1万通貨あたり |
どちらもスワップは好条件で総合力のあるFX会社ですが、大きな取引数量でトレードする場合に特に注意が必要な会社です。
100,000通貨であればロスカット手数料5,000円なので、これをアービトラージの利益に換算するとスワップひと月分程度が無駄になってしまいます。
先ほどの取引手数料と同様に、アービトラージでは滅多に発生する手数料ではありませんが、このようなコストもあることを知っておきましょう。
入手金手数料
基本的に入出金手数料は無料にしているFX会社が多いのですが、唯一、入金方法に銀行振込を選んだ際に発生する金融機関所定の振込手数料は自腹です。(当たり前ですが)
そのため、24時間対応・即時入金・手数料無料の「クイック入金」ができるFX会社が便利でしょう。
アービトラージのリスクのおさらい
スワップの価格差を利用したアービトラージのリスクは、以下の2つです。
- FX会社2社のスワップの価格差逆転リスク
- 強制決済・ロスカットのリスク
はっきり言って、資金配分を間違えなければほぼノーリスクです。
スワップの価格差逆転リスクは大したことありません。
逆転したとしても、2社のポジションをただ決済すればいいだけですし、もし対応が遅れてもスワップ数日分の損失しか発生しないでしょう。
強制決済・ロスカットについては、これまで解説してきたことに気をつけて運用すれば、ほぼリスクゼロです。
ただし、通常は為替差損が出ているポジションが強制決済・ロスカットされてしまった場合、為替差益の出ているもう片方のポジションも決済してリスクを抑えますが、残ったそのポジションがその後も利益を伸ばし続ける可能性があります。
そのポジションをどうするかは、もはや通常のトレードになるので状況によって利益確定するか様子を見るか判断してください。
ただし、これをロスカットされたレートより不利なレートで決済してしまうと、長期間に渡って貯めてきたスワップ利益を超える損失を出してしまうこともあるので注意してください。
その他、事前に知っておいた方がいいこととして、
- FX業者の破綻
- 相場急変によるスプレッドの拡大
があります。
ですが、FX業者の破綻はかなり可能性が低いですし、国内FX会社は全て信託保全が義務付けられていますので、万一破綻しても預けていた口座資産は全額返金されます。
また、リーマンショック級の相場急変時はスプレッドが大きく広がるため注意が必要です。と言っても前述のように口座維持率に余裕を持って運用していれば心配はいりません。
通貨ペア別!FX会社のおすすめ組み合わせランキング
最後に、スワップの差額をランキングにまとめました。
「国内FX会社 8社のスワップ比較」のところで解説したFX会社と通貨ペアの中から、スワップ差額が10円以上(10,000通貨、1日あたり)になるものをピックアップしています。
ラインキング | 通貨ペア | 勝ち口座 | 負け口座 | スワップ差額 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
FX会社 | スワップ | FX会社 | スワップ | |||
1位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | GMOクリック証券 | -37円(売) | 23円 |
2位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | YJFX! | -38円(売) | 22円 |
3位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | SBI FXトレード | -39円(売) | 21円 |
4位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | FXプライムbyGMO | -41円(売) | 19円 |
5位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | GMOクリック証券 | -32円(売) | 18円 |
6位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | DMM FX | -42円(売) | 18円 |
7位 | NZドル/円 | ヒロセ通商 | 60円(買) | 外為どっとコム | -42円(売) | 18円 |
8位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | DMM FX | -35円(売) | 15円 |
9位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | 外為どっとコム | -35円(売) | 15円 |
10位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | YJFX! | -35円(売) | 15円 |
11位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | SBI FXトレード | -36円(売) | 14円 |
12位 | 豪ドル/円 | ヒロセ通商 | 50円(買) | FXプライムbyGMO | -37円(売) | 13円 |
13位 | 米ドル/円 | ライブスター証券 | 47円(買) | DMM FX 外為どっとコム | -35円(売) | 12円 |
14位 | 米ドル/円 | YJFX! | 46円(買) | DMM FX 外為どっとコム | -35円(売) | 11円 |
15位 | 米ドル/円 | SBI FXトレード | 45円(買) | DMM FX 外為どっとコム | -35円(売) | 10円 |
※2018年3月の月間平均順
NZドル/円・豪ドル/円の取引には、圧倒的に買い注文の受取スワップが高いヒロセ通商が勝ち口座に最適、負け口座にはGMOクリック証券が最適です。
ランキング1位のNZドル/円の組み合わせの場合、10万通貨での利益は年間83,950円となります。資金は250万円ほど準備しておけば色々対応ができます。
米ドル/円の取引には、どこのFX会社でも受取スワップはそれほど高くはありませんが、勝ち口座にはライブスター証券が最適、負け口座には圧倒的に売り注文の支払スワップが格安なDMM FXか外為どっとコムのどちらかで決まりでしょう。
ランキング1位〜12位までは、やはり高金利通貨と低金利通貨のNZドル/円・豪ドル/円が占めていますね。大局的に考えると、しばらくこのままの順位が続くでしょう。
また、ランキングを見れば、そのFX会社の特徴や傾向がおおよそ分かってくると思います。
ぜひ、取引の参考にしてみてくださいね。