雇用統計とは、米国の「非農業部門雇用者数」の通称です。
原則として、毎月第1金曜日の日本時間21:30(または22:30)に発表されます。
為替相場に影響を与える各国の経済指標の中でも、群を抜いて大きな変動をもたらします。
雇用統計のトレード手法は、大きく、
- 雇用統計発表「前」にトレードする
- 雇用統計発表「後」にトレードする
- トレードしない
の3つに分けられます。
この記事では、雇用統計の「必勝法」とまではいかないものの、雇用統計に乗じた「勝率70%」程度のトレード手法をご紹介します。
最初に効率的市場仮説を理解しよう
1970年にシカゴ大学のユージン・ファーマ教授が提唱した『効率的市場仮説』は、現在においてもマーケット分析の一大潮流となっています。
この要点をわかりやすくまとめると、下記の5つになります。
効率的市場仮説の本質
- 市場で形成される価格は常に正しく、高すぎでも安すぎでもない。チャート上の動きは、この「適正価格」を中心に、ランダムウォークしているにすぎない。
- したがって、特定時点での「買い」も「売り」もどちらが有利ということはない。上に行くのも下に行くのも、フィフティ・フィフティ(50:50)である。
- つまり、トレードによって市場から超過利潤を得ることはできない。
- ただし、マーケットにサプライズがあったときのみ、価格は「新しい適正価格」を目指して方向性を持って動く。
- 上記の価格調整も、市場が十分に効率的であるならば、瞬時(≒0秒)に行われる。
それではこれから、雇用統計に乗じたトレードを、効率的市場仮説と絡めて紹介します。
効率的市場仮説を「けものフレンズ事件」で解説します
出典元:テレビ東京
『効率的市場仮説』に対する批判は、1970年の学説の発表以来、何千回と繰り返されて来ました。
「市場で形成される価格は常に正しい」という前提が、非現実的で机上の空論すぎないというのです。しかし、効率的市場仮説が非現実的だからといって、その学説に意味がないわけではありません。
マーケットにサプライズがあったときのみ、価格は「新しい適正価格」を目指して方向性を持って動く。
上記を、株式価格を例に、説明します。
2017年9月25日20:00に、人気アニメ『けものフレンズ』の「たつき監督」本人が、株式会社KADOKAWAから「不当解雇された」旨、ツイートしました。
突然ですが、けものフレンズのアニメから外れる事になりました。ざっくりカドカワさん方面よりのお達しみたいです。すみません、僕もとても残念です
— たつき/irodori (@irodori7) 2017年9月25日
このツイートにより、20:00に1,371円だった親会社のカドカワ株式会社の株価は、36分後の20:36には1,300円まで下落しました。
カドカワ株価が崖になりました pic.twitter.com/ibCn9WI8ux
— リペアッシュ (@doujorepair) 2017年9月25日
これが、新しい「適正価格」への移動です。
株価が、子会社に関する悪情報「カリスマ監督の不当解雇」を織り込んだのです。
効率的市場仮説の立場からは、旧い「適正価格」から、新しい「適正価格」への移動の過程でのみ、トレンドは発生します。この場合、ダウントレンドです。
そして、市場が十分に効率的であるなら、たつき監督のツイッターでのつぶやき後、瞬時に(≒0秒で)、新しい「適正価格」に移動したはずです。
逆に、ツイッターはおろか、インターネットもなかった時代なら、一般投資家がこのニュースを知って、価格に織り込ませるのは、翌日の朝刊以降でしょうから、12時間近くかかったはずです。
以上のように、サプライズ後、旧い「適正価格」から新しい「適正価格」に到達するまでにかかる時間こそが、市場の効率性といえます。
価格の調整速度 = 市場の効率性
なぜ、価格は、瞬時には「新しい適正価格」に到達できないのでしょう?
「新しい適正価格」に到達するのに時間がかかる理由
- すべての投資家に情報が行き渡るまでに時間がかかる
- 最初はニュースに対する解釈が投資家ごとに異なるが、徐々に収束する
- 意思決定に合議や稟議を採用している場合、時間がかかる
今回の『けものフレンズ』で言えば、①すべての投資家が監督のツイッターを見てるわけではありませんし、②この情報をさほどの悪情報と受け取らなかった人もいるでしょうし、③法人株主が株式を処分する場合担当者の一存では決められない等の事情があるからです。
雇用統計発表前のトレード手法
雇用統計週の月曜日から買いを仕掛ける
手法の解説
雇用統計発表前のトレード手法としては、「円安ドル高局面」かつ「雇用統計の予想が良好」な場合、発表のある週の月曜日から発表の金曜日に向けて、じり高になる傾向があります。
これを利用したトレード手法は次のようになります。
- 週明け月曜日の朝一番、スプレッドが落ち着いて来た頃、買いを仕掛ける。
- リスクを避けるため、当日金曜日の発表前までには利益を確定。
上のチャートでは、金曜日の雇用統計の好数値の期待から、月曜から金曜にかけて徐々に上昇していることがわかります。
今回に限らず、週明けから上げ始めた場合、水曜日にいったん調整が入ることが多いです。利確のタイミングは、経験的に言って、水曜日か金曜日がよいでしょう。
今回は、ドル円ロングのポジションをホールドしたまま、雇用統計を通過すれば爆益でしたが、これは結果論です。雇用統計発表後に逆に振れれていれば、それまでの評価益がすべて溶けてしまうだけでなく、評価損を抱える羽目になります。
この手法のリスク
実は、この方法は、うまくいくことも多いのですが、失敗することも多いです。
なぜなら、発表後のドル高を高い確率で予想しつつも、ポジションをとらない人がいるのは、ポジションを持っている間に、悪材料が出てドル円が急落することをおそれているからです。
発表が近づくほど、徐々に円安ドル高(上昇)となるのは、ポジションを保有する期間が短くなり、リスクが小さくなるからです。
つまり、月曜日に安く買えるのは、その分、長期間リスクをとっていることに他なりません。
市場が十分に効率的であるならば、まさしく「③トレードによって市場から超過利潤を得ることはできない」ことになります。
無事ドル円が上がることもあるが、発表前に悪材料が出てドル円が下がることも当然ありうるので、このトレード手法を何度も繰り返せば、確率的に収支はトントンになる、ということです。
雇用統計発表日の当日数時間前にバイナリーオプションを仕掛ける
手法の解説
発表当日は、数時間前から、値動きが穏やかになることが多いです。
この時間帯はボラティリティが低くなるので、FXより、バイナリーオプションで勝つ可能性が高い権利を購入してコツコツ稼ぐのが良いでしょう。
バイナリーオプションで雇用統計に挑む、という意味ではなく、雇用統計前の低ボラ時にバイナリーでコツコツ勝ちを狙うという意味です。
「円安ドル高(上昇)局面」では、バイナリーオプションの「円安」の「下限」のオプションを買うことになります。
発表数時間前は、値動きが穏やかになっていることが分かります。嵐の前の静けさです。
この状態でバイナリーオプションの「円安」の「下限」のオプションを購入します。
上の画像の場合、現在のドル円レートが106.368で、購入するのは106.200のオプションです。
終了時間にドル円が106.200以上であればペイアウトが支払われるので、このままずっと相場がヨコヨコでも利益を出すことができます。
オプション購入に962円を支払い、1000円のペイアウトなので、オプション1毎につき38円の利益となります。
通常の相場ならコツコツドカンになってしまいがちですが、雇用統計前のボラティリティの低いボックス相場では有効な手法です。
この手法が利用できるバイナリーオプションなら「ヒロセ通商のLION BO」か「GMOクリック証券の外為オプション」がおすすめです。
雇用統計発表後のトレード手法
発表直後の「両建て」や「ダブル逆指値」は必勝法ではない
手法の解説
雇用統計発表後、ドル円の価格は、米国の雇用水準を反映した「新しい適正価格」を一直線に目指すはずです。
そのため、昔から「両建て」や「ダブル逆指値」と言った手法が用いられて来ました。
たとえば、発表直前のドル円の価格が106.50なら、同じ枚数のドル円を「両建て」しておき、106.20に買いポジションのストップ、106.80に売りポジションのストップを入れておく、という手法です。
発表時にノーポジの「ダブル逆指値」であれば、106.20に売りの逆指値、106.80に買いの逆指値を入れておきます。
両者は、実質的には、まったく同じ手法です。
実は、両者の方法は、10年くらい前までは必勝法といわれていたものです。
この手法のリスク
ですが、残念ながら、現在はほとんど通用しません。
ひとつに、多くの個人投資家がこの手法を使うことがヘッジファンドに知れたため、発表直後にいったん反対側に振ったり、発表直前に両方に振って、ストップを狩るようになったことがあります。
さらに、アルゴリズム取引の隆盛によって、売りも買いもストップを狩られることが多くなりました。アルゴは、いったん動き出すと、一方的に突き進み、突然反転するような動きをとりやすいからです。
発表直前2分前から発表直後にかけて、①上、②下、③上の順に、両方に振られています。逆指値の設定次第では、「ダブル逆指値」の両方がストップ狩りの餌食になっていました。
かつての必勝法も、超過利潤を継続的に得続けることは難しいのです。
「ダブル逆指値」は、言うは易く行うは難しですので、実際に試されてみると、いろいろ難しさが見えて来ると思います。
その際は必ず、指標発表時のスプレッドが狭くなるFX業者を利用して下さい。
参考記事人気FX業者9社をスプレッドが広がる早朝、指標時で比較してみた
雇用統計発表直後に「全戻しは倍返し」や「半戻しは全戻し」で仕掛ける
全戻し協会(行って来い)
全戻し協会という言葉をご存知ですか?
全戻し協会とは、「サプライズにより、株価や為替が急騰(急落)してから、その上げ(下げ)幅を全部戻す現象」のことを言います。
「行って来い」とも言います。
昨今、雇用統計においても、この現象が非常によく起きるようになりました。
一説には、ツイッター等のリアルタイム情報の普及や、アルゴリズム売買の普及にあると言われています。
「全戻しは倍返し」作戦
たとえば、発表直前に106.50だったドル円が、発表後、107.00まで噴き上げて、106.50まで「全戻し協会した」としましょう。
この場合、106.50を突き抜けて、106.00まで下げることが多いのです。
これが「倍返し」と呼ばれるゆえんです。
数値例を使って標準化するのであれば、
「発表直前106.50で、発表後に107.00まで噴き上げて反転した場合、106.50に売りの逆指値、上に噴き上げた距離と同じだけ下に離した106.00にリミットを入れます。ストップは107.00です」
実は、これも、言うは易く行うは難しで、実際にやってみると、いろいろ問題があります。
まず、発表直前はスプレッドがガバガバで、相場も荒れてくるので、逆指値をいれるべき「発表直前の価格」が特定しにくいのです。
また、相場が反転してじわじわ下げてきた場合、「発表直前の価格」での逆指値でエントリーするよりも、下げ始めたときに見切りで成行エントリーした方が、ロスカット時も損失が小さいですし、利確時の利幅も大きくなります。
さらに、無事、倍返しポイントに向かい始めても、倍返しポイント手前で、足踏みしてしまうことがよくあります。
この例でいえば、106.15~106.20でうろちょろするようなケースです。
この水準で利確してしまうと、ストップ時は107.00まで待つわけですから、利小損大になってしまいます。
がしかし、いったん106.20の水準をみてから、評価益がすべて溶けてしまうのも、精神衛生上よくありません。
半分利確して、残りの半分のリミットは106.00、ストップは106.50に下げるのも手でしょう。これなら、半分利確した時点で、「負け」はなくなっていますし、「ほぼ完勝」の望みもつなげます。
エントリー後、倍返しならず、すぐに上昇を再開してしまっています。
実は、このあと、ストップぎりぎりで反転して、ダブルトップを形成し、ストップのつかないまま、月曜日にはターゲットまで到達しています。
ですが、それは、もはや雇用統計のトレードとはいえません。
30分なり1時間なりのタイムリミットをあらかじめ決めておき、時間切れになったら、イグジットしてしまうのが得策でしょう。
意地になって、ストップとリミットのいずれかがつくまでずっと待っていても、ギャンブルトレードになってしまいます。
「半戻しは全戻し」作戦
個人的にお薦めなのが、この作戦です。
半分戻せば、全部戻してしまうことが多い、という古来からの経験則です。
同じ数値例でいえば、発表直前106.50で、発表後に107.00まで噴き上げて反転した場合、半戻しの106.75に売りの逆指値、106.50にリミット、107.00にストップを入れます。
最近の傾向だと、「全戻しはしても、倍戻しはしない」ことが多いので、より有効な作戦です。
半値戻し後、無事、全戻ししています。このパータンは非常に多いです。来月試してみるとすれば、この手法でしょう。
問題は、利幅が狭くなることです。
雇用統計の発表直後はスプレッドが大きくなるので、発表後にあまり動きが良くなかった場合は、せっかく勝っても、いくらもpips数がとれないことがしばしばあります。「スプレッド負け」してしまいます。
ビッグニュースリバーサルは雇用統計以外でも使える
「全戻しは倍返し」と「半戻しは全戻し」の手法は、「ビッグニュースリバーサル」という名前でも知られています。
実は、これらの手法は、雇用統計に限らず、各国の経済指標の発表や、ニュースのヘッドラインによるサプライズ時など、様々な局面で使える手法なのです。
本質は、「急落(急騰後)に、反転の兆しが見られるか?」にあります。
タイムリミットについては、1時間程度というトレーダーもいますが、私はだいたい10分以内、せいぜい20分が限度だと思っています。
それ以降の動きは、仮に「全戻し」や「倍戻し」したとしても、サプライズ後のトレンドの動きではなく、ランダムウォークの結果だと思います。
雇用統計だけで、これらの手法を使うのはもったいないですし、回数が多くなればなるほど、「大数の法則」により、手法の優位性も検証しやすく、真価も発揮しやすいものです。
ドル円相場に限らず、ポンド円相場やユーロ円相場でも、重要指標発表時には、ぜひ試してみて下さい。