成行注文(なりゆきちゅうもん)とは、FXの基本的な注文方法の1つで、現在表示されている為替レートで売買する注文方法です。
為替レートを指定せずに、FX会社が提示するレートで注文をする方法ですので、買いたい(売りたい)と思った瞬間に注文をすることができます。
株式取引でいう成行注文は「レートがいくらになってもいいから買いたい」という意味ですが、FXの場合は「今のレートで買いたい、売りたい」という意味合いが強く、「マーケット注文」「リアルタイムトレード」「クイックトレード」「プライスオーダー」などとも呼ばれています。
FXの取引では注文をして、その注文がFX会社に届き、注文が執行されて初めて売買が成立します。これを「約定(やくじょう)」と言います。
成行注文では注文レートを指定せずに注文が約定することを優先させる注文方法ですので、売買が成立しやすくシンプルでFX初心者にも分かりやすい注文方法です。
成行注文はスマホでも1タップで完了する
成行注文は注文のやり方もシンプルで簡単です。こちらは外為どっとコムのスマホ画面です。
左側の青色の価格が売りレート、右側のオレンジ色の価格が買いレートです。
この画面では売値が1ドル=113.268円、買値は113.268円ですね。
この画面でレートを確認してポジションを取りたい方をタップします。レートが動くと点滅しながら価格が更新されますので、自分のタイミングでタップするだけで注文がされます。
表示されたレートが気に入らなければ思惑通りのレートになるまで待つことができます。
ほとんどのFX会社の取引アプリがこのような仕様になっていて、同じようにリアルタイムレートが表示されて価格をタップすると注文される仕組みになっています。
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成行注文のメリット・デメリット
メリット
- 現在のレートをリアルタイムで見ながら注文することができる
- 価格の設定などの必要がなく、ワンタッチで注文可能
- 必ず約定する
デメリット
- 注文した時点では実際の約定価格は分からず、注文が通ったあとで初めて分かる
- 値動きが激しいときには注文がスリップしやすい
- スリッページが狭い場合、約定しないことがある
- 手動での注文になるので、自分が取引画面を見ているときのみがトレードチャンスとなる
注文がスベる「スリッページ」とは
FXでは買い注文をして注文がネット回線を通じてFX会社に届き、注文が執行されて初めて約定します。
注文から約定までは実際には1秒もかからないスピードではありますが、その短い間であっても為替レートが動いてしまうことがあるのです。
レートが動いた場合、注文した価格と約定した価格が異なってしまいます。これを「スリッページ」と呼びます。スリッページは投資家にとって不利に働く場合と有利に働く場合があります。
2つの図の左は不利に約定されたケース、右が有利に約定されたケースです。どちらも買い注文を例に挙げています。
注文画面で1ドル=100.00円で買いの成行注文を行い、約定したレートが100.10だった場合、注文時よりも高く買ったことになりますので投資家にとっては不利になります。
FXでは売値と買値にスプレッドという差がありますが、スリッページが起こることによりスプレッド+スリッページというコストが取引にかかってくることになります。
これは回数多くトレードするスタイルの人にはかなり重くのしかかるコストです。
反対に、右の図のようにスリッページにより安く買うことができ、投資家にとって有利に働くこともあります。
為替レートは刻一刻と変わっていきますので、成行注文でスリッページを避けることは難しいと思っておいた方が良いです。
FX会社の取引画面で許容できるスリッページ幅を調整できる
成行注文でスリッページが起こって不利になるという可能性はあっても、ある程度自分でリスクを調節することが可能です。
取引画面で注文から約定までどれくらいまでならレートがスベっても許容できるか自分で決めることができるのです。
指定した許容範囲のpips内のスリッページのみ約定して、指定したよりも大きくスリップした場合は約定しません。ただし、顧客にとって有利な方向のスリッページであれば指定したスリッページ許容幅を超えていても約定されます。
FXの単位pips(ピップス)とは?1pipsはいくら?損益の計算方法
この機能を使えば、思っていたレートと全然違った!というようなリスクを避けることができます。
この図の例はスリッページの許容幅を10pipsに決めた場面の新規買い注文の例です。
1ドル=100.00円の現在値で注文したとします。この場合、100.00円から上下各10pipsまで許容していますので、99.90円から100.10円までが約定の許容範囲です。
- 100.00円で注文して、100.04円で約定した場合、スリッページ許容範囲内なので約定します。
- 100.00円で注文して99.87円に到達した場合、10pipsの許容範囲を超えていますが顧客にとって有利になるので約定されます。
- 100.00円で注文して、100.15円までスベった場合はスリッページ許容範囲外となりますので注文失効、約定されません。
スリッページ幅を超えた場合は約定しませんので安心ではありますが、あまりにもスリッページ幅を狭くすると約定しにくく、成行注文がかえって不便になってしまいます。
許容スリッページ幅を設定しないで取引をすると相場状況によりびっくりするほど滑ったレートで約定する可能性もあります。
いくらになってもいいからとにかく損切りしたいという場合はこれでも良いですが、普段のトレードでは成行注文を発注する際は許容スリッページ幅の設定をしておくことをおすすめします。
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成行注文が有効なタイミング
今すぐ取引をしたい時
成行注文は今すぐ注文が成立するのが大きな特徴ですので、「今すぐ損切りをしたい!」というときや、「売買シグナルが出たのですぐに取引したい」といった場面で使えます。
特にスキャルピングのように薄利で一日に何十回~何百回も取引を重ねるトレードスタイルでは、シグナルが出たらすぐにエントリーをしたいので成行注文を駆使してトレードを行います。
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必ず約定させたい時
成行注文は約定させることを優先させる注文方法ですので、注文レートからずれるリスクがあっても確実に売買させたいときには成行注文を行います。
値動きが緩やかな時
成行注文を行うのはスリッページの少ない値動きが緩やかな相場の時に行うのがベストです。
多少のスリッページがあっても影響がない値動きがおとなしい時に、現在価格を確認しながら注文をするのがおすすめです。
成行注文の約定力はFX会社によって異なる
約定率とは投資家が意図するタイミングと価格でFX会社の注文が成立する確率のことを言います。
この注文を成立させる力のことを約定力といい、各FX会社によってその力は異なります。
約定力が高いと投資家が注文した時のレートと、FX会社が取引を成立させる価格の差が小さく、つまりは「スリップしにくい」という事になります。
- 約定力が高いFX会社 = 注文レートと約定レートの差が小さい
- 約定力が低いFX会社 = 注文レートと約定レートの差が大きい
約定力が高いFX会社を利用することで、
- チャンスを逃さず取引ができる
- スリッページによるコストが軽減できる
というメリットがあります。
各FX会社で約定率を公表していますが、約定率が高かったり、約定率の高さを謳っているFX会社はスベりの幅をある程度抑えることができますので、特に頻繁にトレードする人にとっては無視できない取引業者選びのポイントとなります。
成行注文ではスリッページが起こることがありますが、スリッページが起こらないようにするか最小限に抑えるには約定力の高いFX業者を使うこともポイントとなりますので、取引会社を選ぶ際には約定力もチェックしておくとよいでしょう。
指値注文との違い、使い分け方
成行注文の他に代表的なFXの注文といえば指値注文(さしねちゅうもん)があります。
現在の価格で注文をする成行注文に対して、指値注文は取引価格を指定して注文し、自分の納得した価格で取引したい人に人気がある注文方法です。
指値で注文しておけば、日中に仕事をしている人なら仕事中や夜間の睡眠時間など、トレード画面に向かっていない時間帯でも指定したレートになれば自動的に注文を執行してくれるので忙しい人にはぴったりです。
まず簡単にそれぞれの違いと使い分け方をまとめます。
指値注文
- 為替相場と保有ポジションから見て有利なレートを指定して注文する注文方法。
- この価格で反転すると見て注文を入れておくなど、逆張り注文にも利用できる。
- 現在より安く売り、現在より高く売ることを目的として一度注文をしておけばトレード画面を見ていない時間帯でも約定されるが、チャンスを逃すことがある。
成行注文
- チャートの値動きを見ながらシグナルを待って注文する方法。
- 順張りでトレンドに素早く乗りたいときに有利な注文方法
- トレンドに素早く乗れたり、リスクをいち早く回避したりと為替の値動きに柔軟について行くことができるが、トレード画面を監視する必要がある。
- 為替が一番激しく動く日本時間の夜の時間など、毎日決まった時間にトレードする人に向いている注文方法。
指値注文は基本的にはスリッページによる注文価格のズレが発生しません。もし指値注文でスリッページが発生した場合は自分にとって有利な方向へのスリッページのみが発生します。
これに対し、成行注文は注文レートよりも約定させることを優先させます。レートよりも「買いたい・売りたい」を優先させるのでスリッページが発生する代わりに約定のスピードが指値注文に比べて早くなります。
トレードをしていて、多少のリスクを許容して約定させることを優先させるなら成行注文の方が良いですし、リスクを好まずに自分が指定したレートでの売買を希望するなら指値注文を選ぶのがベターです。
売買価格を重視したい場合や平日忙しくて取引画面にずっと向かっていられない場合は指値注文を、取引の約定を重視したい場合は成行注文をとそれぞれの注文方法を使い分けるようにすることがポイントです。
指値注文の使いどき
指値注文をするとき、どんなことを考えて注文しますか?
「ここまで安くなったら買おう」
「ここまで上がったら買い注文を利確決済しよう」
などではないでしょうか?
指値注文は基本的に
- 現在よりも安いレートで買う
- 現在よりも高いレートで売る
ことを目的として注文をする方法です。
テクニカル分析などでブレイクポイントなどを探り、そのポイントで新規指値注文をいれておく、というのに有効です。
例えばこのチャートのように過去の価格から水平線を引いて、このラインまで価格が下がって、安値を拾えるだろうと考えたときに、この価格に指値の買い注文を入れておきます。
そうすれば、仕事中でも就寝中でもこの価格に到達すれば自動的に買い注文が通ります。
要するに、現在の為替相場と保有ポジションから見て有利なレートを指定して注文をするのが指値注文です。
指値注文のデメリット
指値注文のデメリットは注文を出してその注文価格にレートが到達すればよいのですが、そこまで届かずに売買のチャンスを逃してしまうことです。
例えば上のチャートのようにグリーンの点線の位置のレートで新規買い指値を仕掛けていたとします。逆張りの指値買いですね。思惑通り、価格が下げてきましたが、指値を置いているレートにローソク足が届かずに反転してしまいました。
価格が下がってくるという分析が当たってはいましたが、予想していた価格よりも底値が上でした。このように、指値では買いや売りのチャンスを逃してしまう事があります。
利益確定の場合も同様のリスクがあります。ここでは買いポジションを持っていて、利益確定の指値注文を入れていますが、あと少しのところで価格が指値をいれたレートに届かずに下降してしまっています。
結局買いをいれたところよりも下降してしまっているので、利益のチャンスを逃しただけでなく、損失に終わった、というようなリスクがあるのが指値注文のデメリットです。
成行注文の使いどき
為替相場はさまざまな要因が値動きを作っていますのでどんなきっかけでトレンドが動き出すか分かりません。
FXでは相場の値動きを見ながらトレードをするのが一番有利です。実際プロトレーダーは基本的に成行注文のみを使用する人が多いです。それはテクニカル分析のシグナルに反応してトレンドに素早く乗っていく成行注文が一番有利だからです。
シグナルを待って順張りするとき
このチャートはドル円の15分足チャートにGMMAを表示させています。
ピンク色の線がGMMAの長期線、グリーンの線が短期線です。GMMAのシグナルでは短期線と長期線の位置が入れ替わることですので、これを合図にエントリーしてトレンドに乗ることができます。
グリーンの短基線がピンクの線にタッチして跳ね返されるポイントは押し目買いポイントとなりますので、買い増してもいいですし、保有ポジションを利確するポイントとしても使っても良いです。
最後はローソク足が長期線を割り込む動きをしていますので、一旦トレンドは落ち着いたものとみて利益確定。もしここでポジションを持ってしまった場合は損切りとなります。
今ご紹介したエントリーポイントまたは決済ポイントがすべて成行注文だったことをお気づきでしょうか?
このように、インジケーターを見ながら自分のエントリー条件を満たしたシグナルが出たときにエントリーする場合はチャートを監視しながらのエントリーとなりますので、成行注文を使います。
インジケーターのシグナルによってトレンド発生を捉えて早めにトレンドに乗っていく手法ですので、成行注文はどちらかというと順張りの投資手法に適した注文方法だと言えるでしょう。また、シグナルによって売買を行いますのでチャンスを逃すということもありません。
急落に対応するとき
為替は急激に大きな動きをすることがありますが、このようなときは成行注文で素早く損切りしてリスクを回避した方がよいです。後で値が戻って損切りしない方がよかったとしても、自分の予想と反対方向に急激な動きをした時にはすぐに対応することをおすすめします。
このように成行注文は激しく動く為替相場でトレンドに素早く乗ったり、リスクをいち早く回避するのに適した注文方法です。